富永啓生のNBA入りはあるのか

 富永啓生の大学バスケが終わった。

 沖縄などで開催されたFIBAバスケットボール ワールドカップ 2023で、富永は日本代表として日本男子のパリ五輪出場に貢献。米国に戻ってから、ネブラスカ大で学生最後のシーズンを送っていた。

 3月のNCAAトーナメントは「マーチ・マッドネス(3月の狂気)」と呼ばれ、全米中から注目を浴びるが、ネブラスカ大は2014年以来10年ぶりにこのビッグイベントに出場。3月22日にテネシー州メンフィスで行われたテキサスA&M大との1回戦に挑んだが、83対98で敗れ初戦敗退となった。

 この試合での富永は、試合開始早々から3本連続で3ポイントシュートを決め勢いに乗るかと思われたが、その後は苦戦。結局29分間の出場で21得点、2リバウンド、1アシスト、3ポイントシュート成功率45.5%と及第点の数字は残したが、試合の行方がほぼ決まった終盤にベンチに下がると涙を流し感情を露わにした。

 どこからでも、そして厳しい体勢からでも決めてくるロングシュートがトレードマークの富永は、北米でも“Japanese Curry(和製カリー)”として名を馳せた。

 2019年に桜丘高校を卒業すると、短大のレンジャー・カレッジに進学。3年生からはネブラスカ大に編入し、年々、実力と知名度をアップさせてきた。2021-22シーズンは平均16.4分間だったプレータイムは、昨季25分を超え今季は26分。シーズンアベレージの15.1得点、2.3リバウンド、1.4アシストはキャリアハイで、20得点超えは7試合を数えた。

 1月10日に行われた全米ランクNo.1のパデュー大戦では、32分プレーし19得点したが、得意の長距離砲は9本中5本成功。ここから富永の知名度はさらにアップし、ネブラスカ大がNCAAトーナメント出場を決める頃にはピークとなった。

 特にシーズン終盤からトーナメント1回戦までは、3月4日のラトガーズ大戦で18得点すると、同11日のミシガン大戦で30得点、同16日のインディアナ大戦で23得点、同17日のイリノイ大戦で18得点を記録。トーナメント1回戦のテキサスA&M大戦の21得点を合わせると、これら5試合のアベレージは22得点となり、チームの柱として十分な活躍を見せたと言える。

 そんな富永の虜になったのは、ESPNの人気トーク番組「ザ・パット・マカフィー・ショー」で司会を務める元NFL選手でWWEにも登場するパット・マカフィーだ。彼は「大学バスケのシーズン終盤まで彼(富永)のことを知らなかったとは……」とし、富永のインディアナ大戦のプレーを見ながら大絶賛。「(今年のマーチ・マッドネスは)ケイセイ・トミナガに注目しろ」などと10分以上に渡って取り上げていた。

 また大会の公式Xなどでも、度々、富永が取り上げられる状況に。1回戦の中継では富永のガールフレンドも度々映し出され、注目度の高さが垣間見られた。

 では、大学バスケ生活に終止符を打った富永は、果たして八村塁、渡邊雄太に続くNBA入りを果たすことができるのだろうか?

 もちろん日本から応援するファンとしては、富永が6月のNBAドラフトで指名を受けることを期待したいところだが、現実はかなり厳しい状況にある。シュート力はNCAAの中でもトップレベルにあるが、やはり188センチという身長はデメリットになっている。

 今季は外からのシュートだけでなく、ゴール下に切り込み攻撃オプションが増えた富永だったが、ディフェンス面で苦しむこともあり、またフィジカル面でも課題は残る。実際のところドラフト指名を予測する主要なモックドラフトに富永の名前はリストアップされていないのだ。

 こうなると富永が取れる道は、渡邊のようにサマーリーグに参加して、そこで結果を出しNBAチームと契約することだろう。

 また、日本代表としてパリ五輪でプレーし結果を残すことも重要だ。日本は世界ランク3位のドイツ、同9位のフランスというNBAのスターもいる国と同組。世界が注目する中で、得意の長距離砲はもちろん攻守にわたって世界と渡り合えることを披露できれば、富永の評価は一気に高くなるはずだ。

 ネブラスカ大でHCを務めるフレッド・ホイバーグ氏は、元NBA選手で引退後はシカゴ・ブルズでHCの実績もあるなど、NBAを熟知している指揮官だ。そんな同HCは、教え子の富永について、メディアに対しこんな言葉を残している。

「ケイセイにとって最大の課題はサイズだが、スペシャリストであれば、何人かはそれを克服してきている。ケイセイは単なるシューターではない。カッティング、バスケIQ、プレーぶりを見ればわかることだ。ストレングスと身体はこれからも努力の必要はあるが、懸命にプレーするプレーヤー、シュートが打てるプレーヤーを頭から外してはいけない。ケイセイはそうしたことができる」。

 ホイバーグHCの富永評を信じて、これからも“和製カリー”のNBAへのチャレンジを見守って行きたい。(文/田村一人